「エントリーレベルのPCセグメントは2028年までに消滅する」
市場調査会社ガートナーのシニアディレクターアナリスト、Ranjit Atwal氏が放ったこの一言は、PCユーザー、特にコスト重視で自作やゲーミングPCを楽しんできた層に刺さる言葉だ。大げさな表現ではなく、現在進行中のDRAM価格高騰という構造問題を、2〜3年後まで引き伸ばして見ると何が起きるかを示した冷静な予測だ。
何がそんなに深刻なのか
ガートナーの最新レポートによれば、2026年のPC出荷台数はスマートフォン市場を上回る10.4%の減少が見込まれている。
背景にあるのはDRAMコストの急騰だ。HPのCFO Karen Parkhillが2026年2月24日のQ1決算説明会で衝撃的な数字を開示した。「前四半期にはPCの製造原価(BOM)に占めるメモリ・ストレージのコストは15〜18%だったが、現在は約35%に達していると推定している」という発言だ。つまりわずか1四半期でBOM比率が2倍に跳ね上がった。部品コストの3分の1強が、メモリ1項目に食われている計算になる。
この発言を受けてHP株は52週安値まで下落。売上高・EPSともに市場予測を上回りながらも、先行きの見通しの悪さが市場に嫌気された。Dell・Lenovoも同様のコスト警告を出しており、HP固有の問題ではなくPC業界全体の構造問題であることが裏付けられた形だ。
500〜1,000ドルの価格帯が最も打撃を受けると見られており、これは従来「エントリー〜ミドルレンジ」として最も多くのユーザーが購入してきた層だ。ガートナーはメーカーが「利益を維持するために販売数量の減少を受け入れる」方向に動くと予測しており、小売市場での製品ラインナップそのものが縮小していく可能性を示唆している。
500ドル以下が「消える」ということの意味
「500ドル以下のエントリーPC消滅」という予測を日本円に換算すると、7〜8万円以下のPC市場が実質なくなるというイメージに近い。
これまでエントリーPCは、「ゲームを始めてみたい学生」「サブ機として使いたい社会人」「子どもに持たせたい保護者」といった層の入り口だった。そのセグメントが消えるということは、PCという入り口そのものが狭くなるということだ。
ゲーミングという文脈では特に影響が大きい。コンシューマー向けゲーミングPCの底辺を支えてきた価格帯が崩れると、「とりあえず安いゲーミングPCから始める」という選択肢が消え、入門者がゲームコンソールやスマホゲームに流れる動きが加速する可能性がある。
なぜすぐに解決しないのか
ここが重要な構造問題だ。メモリ不足は「一時的な需給の乱れ」ではなく、AIインフラへの需要が供給を構造的に上回っている状態だ。
Samsungの現在の生産能力はDRAM需要の60%程度しか賄えないとされており、SK hynixも今年の生産増加は前年比7%にとどまる見込みだ。一方でCXMTなど中国メーカーへの期待については以前の記事でも触れたとおり、価格面・技術面・規制面のいずれをとっても「救世主」になれる現実的な条件が整っていない。

ガートナーの試算では既存のDRAMイベントリが今まさに枯渇しつつあり、Q2以降に価格圧力がさらに本格化すると見ている。正常化の目安として業界が語るのは「2027〜2028年」だが、それまでの間はメーカーもユーザーも高コスト環境を生き抜かなければならない。
「買い控え」が最善策というガートナーの示唆
ガートナーのレポートが暗に示しているのは、消費者にとって今のPC購入は「損をしやすいタイミング」だということだ。PCの平均使用年数が今年末までに20%延びると予測されているのは、ユーザーが買い替えを先送りにする動きが広がることを意味する。
現在メモリ不足に苦しんでいない環境——例えばDDR4のAM4プラットフォームを使っている場合——は、まだしばらく現状維持が合理的かもしれない。前回の記事でも触れたRyzen 5 5500X3Dのように、DDR4環境のままCPUをアップグレードするという選択肢が「現実解」として浮上してくるのも、こういった背景がある。

新しくPCを組む必要がある場合は、DDR5メモリの容量を最低限(16GB)に絞り、価格が落ち着いてから増設するという戦略が現実的だ。「最初からフル構成で組む」よりも、「後から足せる構成で安く抑える」方が、今の相場環境では賢い。
「消滅」の後に何が残るか
エントリーPCが消えた後の市場がどうなるかは、まだ見えていない。
一つの可能性は、クラウドゲーミングやChromebook的な「薄いクライアント端末」の需要が伸びることだ。端末側のスペックへの依存度を下げれば、メモリコストの影響を切り離せる。すでにGeForce NOWやXbox Cloud Gamingといったサービスが存在しているが、これらが本格的な「エントリー層の受け皿」になれるかは、通信インフラと課金モデル次第だ。
もう一つの可能性は、中古・リファービッシュ市場の拡大だ。新品の低価格帯が消えれば、その需要は2〜3世代前の中古品に流れる。Ryzen 5000シリーズやCore i5第12世代あたりが、今後「コスパ最強の中古CPU」として再注目される流れは十分にあり得る。
いずれにせよ、ガートナーの予測は「2028年までに低価格PC市場が消える」という警告だが、同時に「それに代わる何かが生まれる余白も存在する」という読み方もできる。
まとめ
低価格PCの消滅予測は、DRAM高騰・AI需要による供給圧迫・メーカーのコスト転嫁という三つの力が重なった結果だ。一つの問題が解決されても、残り二つが残る。だから「一時的な話」ではない。
今PCを持っているなら、できる限り長く使い続けることが合理的な選択だ。今すぐ買う必要があるなら、メモリ容量を絞って後から増設できる構成を選ぶこと。そして「安いから買う」という行動パターンは、少なくとも2027年末ごろまでは通用しないと思っておいた方がいい。
参考ソース
・Gartner Says Surging Memory Costs Will Reduce Global PC and Smartphone Shipments in 2026
・HP says memory costs doubled in one quarter, now account for 35% of PC build materials

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