2025年の今、スマートフォンですら8GBのメモリを積んでいる時代です。16GBが最低人権ライン、クリエイターなら32GBが常識とされていました。しかし、その常識が音を立てて崩れ去ろうとしています。
市場調査会社TrendForceの最新レポートは、ノートPC市場に衝撃的な予測をもたらしました。メーカー各社が、供給不足と価格高騰に対抗するために、ある禁断の手段に手を染めようとしているというのです。
警報レベルのメモリ不足
メーカーを追い詰める現実
ノートPCメーカーたちは今、深刻なDRAM不足と価格高騰に直面しています。その状況は、業界の用語で「警報レベル」と表現されるほど深刻です。
通常の経営状況なら、メーカーは以下の選択肢から最適な対応を選びます:
- 工場増設や増産:供給を増やしてシェアを確保
- 値上げ:利益を維持しながら供給量を保つ
- 仕様変更:コストダウンして利益を確保
しかし今、メーカーが選択しようとしているのは、これらのどれでもない極めて危険な道です。
シュリンクフレーション:価格は上げ、スペックは下げる
TrendForceが指摘するのは、「価格を上げつつ、メモリ容量は8GBに抑える」という悪夢のシュリンクフレーションです。
これは消費者にとって二重の打撃です:
- 高くなる:部品不足と価格高騰をそのまま反映
- ショボくなる:容量を削減して利益確保
かつてスマートフォンやコンビニ商品が経験した「量は減ったのに値段は同じ(むしろ高い)」という現象が、今、PCの世界で起こりうるのです。
Dellが示す現実:数百ドルの値上げ
大手メーカーも対抗できない
Dellのような業界の巨人ですら、すでに「数百ドル(数万円レベル)」規模の値上げを実施していると報告されています。
つまり、「PC本体の価格+αの値上げ」ではなく、「本来のPC本体価格に上乗せする形での大幅値上げ」が起こっているということです。
アップグレード価格の不条理さ
さらに恐ろしいのは、ユーザーが「8GBじゃ嫌だ。16GBや32GBが欲しい」と望んだ場合です。
そのアップグレード価格は、レポートいわく「不条理なレベル」に達すると予想されています。
具体例を挙げるなら、Dellでは現在、LPDDR5Xメモリを16GBから32GBに増やすために550ドル(約8万5千円)を追加請求しています。
たった16GB分のチップを増やすだけで、ゲーミングコンソール以上の金額を請求されるわけです。
市場の転換点:8GB構成へのシフト
ミドルレンジ市場の異変
TrendForceの分析によると、市場で最も売れる「ミドルレンジ」のノートPCにおいて、この「8GB RAM」という仕様がこれまで以上に頻繁に見られるようになるとのことです。
ミドルレンジとは、一般的な事務作業やウェブ閲覧を想定した、最も「普通の」PCを指します。その普通のPCの標準仕様が、8年前の水準に逆戻りしようとしているのです。
一時的ではなく「長期的調整」
最も危惧すべき点は、メーカーたちがこれを「一時的な対応」ではなく、「長期的な調整」として織り込み始めていることです。
つまり:
- ❌「今は高いから一時的に8GBにするけど、すぐ16GBに戻すよ」
- ✅「これからは数年間、高い部品は使わずに8GBで売るのが新しいスタンダードだ」
メーカーは腹を括ったのです。この先数年間、8GBが標準仕様のまま続く可能性が高いのです。
2026年第2四半期:価格の「攻撃的」な変動
防波堤の決壊
世界最大のPCメーカー・Lenovoが、2025年に値上げを抑制できた秘密が判明しました。
Lenovoのチーフ・フィナンシャル・オフィサー(CFO)は、Bloomberg TVで驚くべき事実を明かしています:「我々は、通常よりもおよそ50%も多い部品在庫を抱えている」
AIブームでメモリ価格が上がることを予見して、彼らは事前に莫大な量の在庫を確保していました。その巨大な「貯蓄」を切り崩すことで、部品コストの上昇分をメーカー側で吸収し、消費者への値上げを食い止めていたのです。
しかし、同時にCFOは警告しています:
「2026年には調整を実施する必要があるかもしれない」
この言葉は、事実上の敗北宣言です。世界最大のPCメーカーが在庫を使い果たして白旗を上げれば、他のメーカーが耐えられるはずがありません。
価格変動の「攻撃的」化
2026年第2四半期に向けて、価格変動は「攻撃的」になると予測されています。
これは単なる「値上げ」ではなく、以下の特徴を持つ変動を意味します:
- 乱高下が激しくなる:相場が不安定になる
- 基本的には急上昇:全体的なトレンドは上昇
- 予測不可能:メーカーの在庫状況に左右される
消費者は「いつが買い時か」を判断することすら難しくなるのです。
グラボ市場まで巻き込まれる
PC本体だけでは終わらない悪夢
メモリ不足の影響はPC本体だけに留まりません。AMDやNVIDIAといったGPUメーカーも、製品価格の引き上げを実施すると予想されています。
理由は明確です:GDDRメモリが足りないからです。
グラボもメモリを大量に搭載する製品であり、メモリ不足の波に直撃されます。ゲーマーにとっての悪夢は続きます。
2027年まで続く供給制約
レポートによれば、この供給制約は「2027年」まで続くと予測されています。
つまり、我々はこれから丸一年以上、以下のすべてが高い状態を歩まされることになります:
- PC本体(ノートPC、デスクトップPC)
- メモリ(DDR、LPDDR、GDDR)
- グラボ(GPU)
「PCゲーマーにとっての『終わりの始まり』」という表現は、決して大げさではないのです。
Microsoftの建前と現実の乖離
「16GBが標準」という宣言の空虚さ
皮肉なことに、2025年、Microsoftは「Copilot+ PC」の基準として、メモリ16GBをベースライン(最低要件)に定めていました。
天下のMicrosoft様が「これからは16GBが標準だ」と宣言した——はずでした。
しかし、現実はMicrosoftの予想を裏切っています。メーカーたちは標準を8GBに「引き下げ」始めているのです。
ソフトウェア開発者への強要
レポートが示唆する、さらに悪い未来もあります。
ハードウェアが高すぎて積めないから、逆に「ソフトウェア開発者が、少ないメモリで動くように最適化を強いられる時代」が来るかもしれないというのです。
これは技術的な退行です:
- ❌「PCの性能が上がったから、ソフトもリッチにしよう」
- ✅「PCが買えないから、ショボい環境でも動くようにしろ」
大容量メモリを搭載すること自体が、一般ユーザーにとって「ますます困難な挑戦」になりつつあるのです。
メモリ削減と値上げの波がPC市場へ
スマホで起こったことがPCでも
この「メモリ削減と値上げ」の波は、以前スマートフォン市場で猛威を振るいました。今、その波がノートPC市場を本格的に飲み込み始めています。
スマホの場合は「ポケットに入れるから仕方ない」という納得がありました。しかし、PCはそうではありません。仕事で使う道具です。
メモリ不足はそのまま仕事の生産性低下に直結します。8GBのPCでブラウザのタブを数枚開いただけで重くなる、という懐かしくも憎き時代への逆戻りが迫っています。
利益確保が最優先
メーカーにとっては「サプライチェーンを一貫させること」、つまり「部品不足で出荷停止になるのを防ぐこと」が最優先です。
「快適に使えるか」なんて二の次なのです。
あなたは今、何を買うべきか?
ノートPC:16GBは人権ライン
ノートPC購入時は、何があっても最低16GBを確保してください。
8GBは選択肢から除外してください。理由は以下の通りです:
- Windows 11がアイドリング状態でOS自体に3-4GB消費
- iGPU(内蔵グラフィックス)がさらに512MB-2GB予約
- 実質的に自由に使える領域は3-4GBだけ
- 最近のノートPCはメモリがオンボード(交換不可)
最初にケチったら、PCを買い替えるまでそのストレスと付き合うことになります。16GBが人権ラインです。
デスクトップPC:32GBへの投資を惜しむな
ゲームやクリエイティブ作業をガッツリやりたい場合は、32GBを目指してください。
今はまだ、数千円から1万円程度の追加投資で32GBにできます。
しかし来年になれば、Dellのように「増設するなら8万円払え」と言われるかもしれません。
Chromiumベースのアプリを複数立ち上げて最新のゲームを動かすなら、16GBでもカツカツになりつつあります。
今の底値のうちに32GBを確保しておくのが、最もコスパの良い保険です。メモリだけは積めるだけ積んでおきましょう。
結論:迷っている暇はない
この状況は、一企業の戦略ミスではなく、業界全体の構造的な問題です。
AI産業の爆発的な成長により、メモリの需給バランスは一般消費者の側に傾くことはありません。むしろ、2028年までこの状況が続く可能性が高いのです。
ノートPCメーカーの「8GB化」への動きは、ユーザーの困惑を無視した、純粋な経営判断の結果です。
迷っている暇はありません。必要なメモリがあれば、今のうちに確保してしまう「防衛策」が必要な時代なのです。
「もう少し待てば安くなるかも」という淡い期待は捨てましょう。代わりに、未来の自分への投資として、今ケチらずにメモリを積んでおく。それが賢い選択なのです。


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