人気テックYouTuber「Tech Yes City」のRyzen 9 9950Xが、ASRock X870 Steel Legend WiFiで3〜4ヶ月おきに2回連続で死亡。BIOSアップデートでも復活せず、ASRockマザボのVRM問題が浮上しています。
「また同じマザボで死んだ」――繰り返される悪夢
「まったく同じマザーボードで、まったく同じCPUが、また死んだ」
オーストラリアの人気テックYouTuberチャンネル「Tech Yes City」のBryanが報告したこの一言は、AM5プラットフォームを使うPCユーザーに大きな衝撃を与えた。2026年2月、BryanはAMDのRyzen 9 9950XがASRock X870 Steel Legend WiFi上でわずか3〜4ヶ月のうちに2回連続で死亡したことを動画で公開した。
しかも、最新BIOSに更新しても復活せず、電源を入れても「完全に冷たいまま」という状態。問題の原因として、当初は「AMDのCPUの不良ロット」が疑われていたが、調査が進むにつれ、その矛先はASRockのマザーボード側へと向き始めている。
本記事では、この事件の経緯・技術的な背景・現在わかっていること・ユーザーが今すべき対処法を、できる限り詳しく解説する。
事件の経緯:1台目の死から2台目の死まで
1台目:3〜4ヶ月で突然の死
BryanはASRock X870 Steel Legend WiFiマザーボード上でRyzen 9 9950Xを運用していた。特に過激なオーバークロックや異常な使用環境があったわけではなく、一般的なレビュー・テスト用途として使っていた。
しかし使用開始から約3〜4ヶ月後、9950Xは突然起動しなくなった。電源を入れてもCPUがまったく反応せず、ヒートスプレッダーが冷たいまま。正常に動作しているCPUであれば電力を消費して発熱するはずだが、この個体は電力すら消費していない状態、つまり完全に「死んでいる」状態だった。
BryanはこれをXで報告し、「you’re as cold as ice(コールドアズアイス)」という表現でその状態を描写した。
2台目:別の入手先から購入するも同じ結末
1台目の死後、Bryanは全く別の入手先(小売店)からもう1台のRyzen 9 9950Xを購入した。「不良ロットのCPUに当たったのでは」という仮説を検証するための意図的な判断だった。
ところが、この2台目も同じASRock X870 Steel Legend WiFi上で、同様に3〜4ヶ月後に死亡した。症状は1台目とまったく同じ。起動せず、CPUは冷たいまま。
ここで重要なのは、「2台のCPUが別々の流通経路で入手されたにもかかわらず、同じ症状・同じ期間で壊れた」という事実だ。これにより、「AMDのCPUの特定製造ロットに問題がある」という説明は大きく揺らぐことになる。
BIOSアップデートは「解決策」にならなかった
ASRockのBIOS対応の経緯
この問題が浮上した背景に、ASRockとAMDによるBIOS対応の動きがある。時系列を整理する。
2月5日: ASRockがRyzen 9000シリーズの問題について公式声明を発表。AMDと連携して内部検証を実施中と発表し、「BIOSの最適化」を進めていることを示唆。
2月7日: ASRockがAGESA ComboAM5 PI 1.3.0.0aを統合したベータBIOS「4.07.AS01」を以下のX870/X870E対応8モデルに向けて公開。
- X870 Pro RS
- X870 Pro RS WiFi
- X870 Pro-A WiFi
- X870 Riptide WiFi
- X870 Steel Legend WiFi(← 今回の問題のボード)
- X870E Nova WiFi
- X870E Taichi
- X870E Taichi Lite
リリースノートには「AGESA 1.3.0.0aの統合」「メモリ互換性の最適化」「特定CPU構成での起動失敗の修正」という3点が記載されている。

その後: ベータ版から昇格した正式版BIOS「4.10」がリリース。同様の内容を引き継いでいる。
しかし9950Xは「復活しなかった」
Bryanはこの最新BIOSを適用してテストを実施した。ASRockの告知では「起動しなくなったCPUが復活するかもしれない」という期待もあったが、2台目の9950Xはどのマザーボードで試しても一切起動しなかった。
注意点として、ASRockのBIOSリリースノートは「特定CPU構成での起動失敗」とのみ記載しており、Ryzen 9000シリーズに限定した修正かどうかは明記されていない。AM5マザーボードはRyzen 7000・8000・9000のすべてに対応しており、この修正がどのCPUを対象にしているか、外部からは判断できない。
「CPUのせい」か「マザボのせい」か:原因の核心
当初の仮説:AMDの不良ロット?
問題が最初に報告された時点では、「特定の製造ロットのAMD CPUに欠陥がある」という説が広まっていた。これはIntelの第13・14世代CPUで起きた「劣化問題」の記憶が新しかったこともあり、多くのユーザーが似たような原因を想定した。
しかしBryanの2台目の死亡事例が別の流通経路のCPUでも再現されたことで、この仮説は崩れた。
浮上する新仮説:ASRock特定モデルのVRM問題
調査を進めた結果、Bryanが指摘し始めたのがASRockのマザーボード側の問題、具体的には「VRMレギュレーターの不具合による電圧オーバーシュート」の可能性だ。
VRM(Voltage Regulator Module)はCPUに供給する電圧を安定させる回路だ。もしVRMが正常に機能せず、瞬間的に過大な電圧がCPUに印加されると、CPUが即座に壊れるのではなく、少しずつ電気的に劣化していくという症状が起きる可能性がある。
これはまさに今回の事例と一致する。1台目も2台目も、突然壊れたのではなく、3〜4ヶ月かけて徐々に劣化し、ある時点で完全に動作しなくなったという経過をたどっている。
Bryanの他のASRockセットアップは問題なし
興味深いことに、BryanはASRock B850やX870ベースの複数のセットアップも所有しており、それらは長期間にわたって問題なく動作しているという。
つまり、「ASRockのすべてのマザーボードが危ない」という話ではなく、特定のモデルまたは特定の製造ロットのASRock製品に問題がある可能性が高いということだ。今回の事例では、X870 Steel Legend WiFiという同一モデルでのみ2度の死亡が確認されているため、このモデルへの疑いは特に強い。
オーストラリアの大手リテーラーの証言
また、オーストラリアの大手リテーラーからも興味深い情報が得られた。そのリテーラーによれば「Ryzen 9000のCPU返品率は通常の範囲内」とのことだった。
しかしより注目すべきは、そのリテーラーが「高価格帯のASRockマザーボードはそういった問題があるため在庫を置いていない」と示唆したという点だ。大手リテーラーが特定ブランドの上位モデルを意図的に扱わないというのは、単なるラインナップ整理では説明しにくい。
AM5プラットフォーム全体の問題として見る
Ryzen 7 9800X3Dの報告件数
今回の9950Xの事例は、AM5プラットフォームで報告されている問題の氷山の一角にすぎない。ASRockのサブレディットでは、Ryzen 7 9800X3Dの不具合・失敗事例だけで183件がトラッキングされている(2026年2月時点)。
9800X3Dはゲーミング向けの人気モデルであり、報告件数が多いのはユーザー数の多さも影響しているが、それにしても無視できない数字だ。また今回の9950Xは3D V-Cacheを持たない非X3Dモデルであるため、X3D特有の問題ではない可能性もある。
Hardware Unboxedは再現できず
一方で、同じくハードウェア系の著名チャンネルであるHardware Unboxedは、自社の環境でこの問題を再現できなかったと報告している。
このことは、問題が「すべての環境で再現する致命的バグ」ではなく、特定の条件(マザーボードのロット・CPUの組み合わせ・使用環境)が揃ったときにのみ発生する確率的な問題である可能性を示唆している。
こういった「特定条件下でのみ発生する問題」は、原因の特定と修正が非常に難しく、ベンダーによる公式対応も遅れがちになる。
BIOSで直るのか?:技術的な限界を理解する
ASRockが推進しているBIOSアップデートは、「起動しなくなったCPUが実は物理的には壊れていない(ブート状態でハングしているだけ)」という事例に対しては有効な可能性がある。
しかし、今回のBryanのケースのようにVRMによる過電圧が原因でCPU自体が物理的・電気的に劣化・損傷している場合、BIOSアップデートによる回復は不可能だ。ソフトウェアで修正できるのはファームウェアの動作ロジックであり、すでに破損した半導体の物理的な損傷は元に戻せない。
つまり:
- 起動しないがCPUは生きている(ファームウェア起因) → BIOSアップデートで回復できる可能性あり
- CPUが物理的に劣化・損傷している(ハードウェア起因) → BIOSアップデートでは回復不可、交換が必要
Bryanのケースは後者に該当しており、最新BIOSを適用しても9950Xは「冷たいまま」だった。
現在ASRock X870/X870Eを使っているユーザーへ:今すぐできる対処法
対処法①:最新BIOSへのアップデート
まず最低限、BIOS 4.10(安定版)またはそれ以降に更新しておくことを強く推奨する。ファームウェア起因の起動不良に対しては効果が期待できる。ただし、物理的な損傷が進行している場合は意味がない点を理解した上で適用すること。
対処法②:CPUが死んだらマザボも同時に交換する
Bryanが動画内で推奨しているのは、「CPUが死んだ場合、マザーボードも同時に交換すること」だ。マザーボードを変えずに新しいCPUに差し替えるだけでは、同じ環境で再び劣化が進む可能性がある。
特に、X870 Steel Legend WiFiで問題が報告されている現状を考えると、同モデルのマザーボードの使用継続は慎重に判断すべきかもしれない。
対処法③:VRM電圧設定を確認・調整する
BIOSの電力設定でCPUへの供給電圧が高めに設定されていないか確認することも有効だ。特にAutoまたはデフォルト設定のままで、VRMが不安定な挙動をしている場合、手動で電圧上限を適切に設定することでリスクを軽減できる可能性がある。
対処法④:Redditのメガスレッドを定期的に確認する
ASRockのサブレディットでは、AM5系の不具合報告がリアルタイムでトラッキングされている。自分のCPU・マザーボードの組み合わせで報告が出ていないか、定期的に確認しておくことをすすめる。
まとめ:これは「確率論的な地雷」だが、見えてきた構造がある
今回の一件をまとめると、以下のことが現時点でわかっている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | Tech Yes City(Bryan) |
| 死亡したCPU | Ryzen 9 9950X × 2台(別流通経路から入手) |
| 使用マザーボード | ASRock X870 Steel Legend WiFi |
| 死亡までの期間 | 各3〜4ヶ月 |
| BIOSアップデートの効果 | 復活せず |
| 疑われる原因 | ASRock特定モデルのVRMによる電圧オーバーシュート |
| 他のASRockボードでの問題 | BryanのB850/X870系は問題なし |
| 9800X3D報告件数 | 183件(Redditメガスレッド) |
| Hardware Unboxedでの再現 | 再現できず |
Intelの第13・14世代のような「プラットフォーム全体の問題」とまでは言えない段階だが、ASRockの特定上位モデルとRyzen 9000系の組み合わせに何らかのリスクが潜んでいる可能性は否定できない。
BryanがX870 Steel Legend WiFiで2台のCPUを失い、大手リテーラーが高価格帯ASRockボードの取り扱いを敬遠しているという事実は、単なる偶然で片付けるには重すぎる。
ASRockとAMDの公式な調査結果が待たれる状況であり、続報が入り次第、この記事でも更新していく。
参考
Tech Yes City Witnesses Back-to-Back AMD Ryzen 9950X Deaths On ASRock X870 Motherboard

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