米半導体メーカーのAMDが、特許侵害を理由に訴えられました。
訴えを起こしたのは、特許ビジネスを専門とする「Adeia(アデイア)」社。
AMDの「3D V-Cache」技術が自社の特許を侵害しているとして、米テキサス州の連邦地裁に提訴したと発表しました。
訴訟では、ハイブリッドボンディング技術に関する7件と、プロセスノード技術に関する3件、
計10件の特許侵害が主張されています。
対象には、AMDの主力製品「Ryzen X3Dシリーズ」なども含まれるようです。
■ Adeiaとは何者か? 実態は“特許ビジネス企業”
Adeiaは半導体を「作らない」企業です。
いわゆる NPE(Non-Practicing Entity)=非製造特許企業 に分類され、
自ら製品を開発せず、保有する特許をライセンスや訴訟を通じて収益化するビジネスモデルを採用しています。
同社はTiVoを傘下に持つXperi Holdingsからスピンオフし、現在は独立企業として活動中。
公式発表によれば「40年以上にわたる研究開発を通じて、13,000件以上の特許を保有」しているとのことです。
しかしながら、Adeiaやその前身企業は、過去にも複数の大手企業を相手に訴訟を起こしており、
2023年にはNVIDIAとの係争を“機密条件のもとで解決”しています。
こうした動きから、業界では「訴訟を交渉材料にライセンス契約を得る戦略ではないか」との見方もあります。
Adeia and NVIDIA Resolve Litigation
■ AMDの3D V-Cache技術とは
今回の争点となっている「3D V-Cache」は、AMDが2022年以降に展開している革新的な3D積層キャッシュ技術です。
TSMCの先進的なパッケージ技術を用いて、CPUダイの上にL3キャッシュを垂直方向に積み上げ、
キャッシュ容量を飛躍的に増大させるというもの。
この技術はゲーミング性能を中心に大きな成果を上げ、
「Ryzen 7 5800X3D」や「Ryzen 9 7950X3D」などで高い評価を受けています。
AMDがIntelなど競合と差別化する上で、非常に重要な要素です。

■ なぜ製造元のTSMCではなく、AMDを訴えたのか?
ここで1つの疑問が浮かびます。
実際に3D積層の製造を行っているのは台湾のTSMCであり、AMDは設計を担当している立場です。
それにも関わらず、今回の訴訟はAMD単独を対象としています。
その理由について、Adeia側から明確な説明は出ていません。
ただし、業界関係者の間では「最終製品を販売しているAMDを訴える方が、
交渉面でも有利に働く可能性がある」との見方もあります。
要するに、“なぜAMDなのか”は今後の訴訟で明らかになる部分と言えるでしょう。
■ AMDの選択肢 ― 戦うか、和解か
今回の件でAMDが取れる選択肢は大きく2つあります。
1つは訴訟で争う道。
もう1つはAdeiaとの和解交渉に応じる道です。
前者は自社の技術的正当性を守るうえで筋は通っていますが、
訴訟が長期化すれば新製品投入のタイミングにも影響が出かねません。
後者を選べば早期解決は可能ですが、「和解金目当て」と見られるリスクもあります。
なお、Adeiaは過去のNVIDIAとの訴訟を非公開の条件で解決しており、
同様の形で水面下の和解交渉が行われる可能性もあるでしょう。
■ 特許ビジネスと技術革新のせめぎ合い
今回の訴訟は、単なる“企業間の争い”にとどまらず、
現代の半導体業界が抱える「知的財産ビジネス」と「実際の技術革新」の構図を象徴しているようにも見えます。
確かに、特許は企業の権利を守るために重要な仕組みです。
しかし、実際に製品を生み出している企業が、
開発を行っていないNPEから訴えられる構図には違和感を覚える人も少なくありません。
AMDのように実際の市場で技術を磨き、製品を通じて革新をもたらす企業が、
“特許の網”にかかることで開発が萎縮してしまう懸念もあります。
■ まとめ ― AMDは“技術で勝負する企業”
Adeiaが主張する特許の範囲や正当性については、今後の裁判で明らかになるでしょう。
ただ、現時点ではAMDが意図的に侵害したとする根拠は明示されておらず、
業界の多くは慎重に見守る姿勢を取っています。
AMDの3D V-Cacheは、ユーザーの体験を直接向上させた“実際に動く技術”です。
その開発努力と成果は、紙の上の特許だけでは計れない価値を持っています。
今後、どのような形で決着するにせよ、
AMDが「技術で世界と戦う姿勢」を貫くことを、多くのファンやエンジニアが期待しているはずです。


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