2025年10月、静かに変わったOfficeアイコン
2025年10月頃、Microsoft 365(旧Office)のアプリアイコンが刷新されました。いつもの青い「W」や緑の「X」を探したら、微妙に雰囲気が変わっていて戸惑った方も多いのではないでしょうか。
Microsoftはこの変更を単なるデザイン変更ではなく、「戦略的なシフト(Strategic Shift)」を反映したものだと説明しています。新しいアイコンは「統一感があり、直感的で、あらゆるキャンバスでのフローを意識してデザインされた」とのこと。
しかし、この「戦略的」な変更には、大きな問題が潜んでいます。

全ての変更はCopilotのため
デザイン変更の最大の理由は、Copilotの影響を示すためです。MicrosoftはCopilotがすべてのアプリを繋ぐ「単一のインテリジェントな体験」を提供するとして、アイコンもそれに合わせて「よりクリーンな形状」と「鮮やかな色」に変更しました。

全体的に丸みを帯び、色が鮮やかになったのは、AIによる「新時代」をアピールしたいから。つまり「これからは全部Copilotが支配するから、アイコンもCopilotファミリーっぽくした」というわけです。
意識高い系のポエムと現実のギャップ
Microsoftは次のように述べています:
「アイコンは、つながりや一貫性、スムーズなコラボレーションに根差した精神を体現する象徴です。今日のつながりとは、視覚的な一貫性ではなく、Microsoft 365のあらゆるキャンバスにおいて、人間の意図がシームレスに流れることなのです」
しかし現実は、色が鮮やかすぎて目がチカチカし、どれも似たような雰囲気で区別がつきにくくなっています。「直感的」とは言うものの、長年慣れ親しんだデザインを「Copilot色」に染め上げることが、本当にユーザーにとって直感的なのでしょうか。
致命的な変更:モバイル版から文字が消える
デスクトップ版のアイコン変更は「まあ慣れるか」で済む話かもしれません。しかし、モバイルアプリのアイコンから「文字(レタープレート)」が完全に消滅することが決定されました。
「W」「X」「P」が消える衝撃
- Wordの「W」
- Excelの「X」
- PowerPointの「P」
これらの文字が消え、ただの「ロゴマーク(シンボル)」だけになります。つまり「青い図形」「緑の図形」「オレンジの図形」に。パッと見でどれがどれか分からなくなる可能性が高いのです。

Microsoftの言い分:「シンボル主導のデザイン」
Microsoftはこれを「シンボル主導のデザイン(Symbol-led design)」への移行だと説明し、理由として以下を挙げています:
- 包括性(インクルーシブ): 世界にはアルファベットを使わない国も多く、「W=Word」は必ずしも直感的ではない
- 世界的な一貫性: 言語の壁を排除し、色と形だけで認識させるユニバーサルなデザイン
理屈は高尚ですが、何十年も「Wはワード」「Pはパワポ」で刷り込まれているユーザーにとっては、目印を奪われるようなものです。
スマホのホーム画面で、アイコンの下の小さい文字をいちいち読む人はいません。色と文字の形で反射的にタップしているのに、それがなくなったら絶対に迷います。
プラットフォーム間のちぐはぐさ
さらに問題なのは、PCでは「W」が残るのに、スマホでは消えるという点。「統一感」を謳いながら、プラットフォーム間でバラバラなデザインになっているのです。
最大の皮肉:インクルーシブを目指して排他的に
ここからが今回の変更における最大の皮肉です。
色覚多様性を持つ人々への配慮が欠如
この「文字をなくしたデザイン」は、色覚多様性(色盲)を持つ人々にとって、極めて判別しにくい改悪になっています。
代表的な3つの色覚タイプ
- Protanope(1型・P型): 赤色を感じる錐体が機能しにくい。赤が暗く見え、緑と区別がつきにくい
- Deuteranope(2型・D型): 緑色を感じる錐体が機能しにくい。日本人男性の約5%が該当
- Tritanope(3型・T型): 青色を感じにくい。稀だが青と緑、黄色と紫の区別がつきにくい

Officeアイコンの色の問題
Officeアプリの色を思い出してください:
- Word: 青
- Excel: 緑
- PowerPoint: オレンジ(赤系)
これらから文字が消えて「色と形」だけになると:
- Deuteranope(緑が分かりにくい)の人: PowerPointの「オレンジ」とExcelの「緑」が似たような「黄色っぽい色」に見える可能性
- Tritanope(青が分かりにくい)の人: Wordの「青」とExcelの「緑」の区別がつきにくい
「文字」こそが最強のユニバーサルデザインだった
今までは、どんなに色が判別しにくくても、真ん中に大きく書かれた「P」や「X」という文字が最強の目印になっていました。
Microsoftは「インクルーシブ(包括的)」なデザインにするために文字を消したと言いました。しかし現実は、文字を消したせいで「色を見分けるのが苦手な人」を排除する結果になっています。
「誰一人取り残さない」と言いながら、一番サポートが必要な人たちの道しるべを奪ってしまった──これ以上の皮肉があるでしょうか。
社内でも迷走:大量のボツ案が物語る葛藤
実は、Microsoftの公式Instagramアカウントで、衝撃的な「ボツ案(没になったデザイン)」が大量に公開されています。
Wordのボツ案:「青い板」の数々
「W」の文字を完全に排除し、ただの「青い四角」や「波線」だけにしたデザインが山ほどあります。言われなければWordだと分からない、ただの「青い板」です。
Microsoft社内でも、文字を含めるか否かについて激しい議論が交わされたとのこと。
最大の矛盾:デスクトップでは残してスマホでは消す
興味深いのは、デスクトップ版では「ブランドが持つ資産価値の高さ」を鑑みて「W」を残す決定をしたこと。
社内で「Wは大事な資産だ!残すべきだ!」という結論が出たのに、なぜかスマホ版ではその資産をドブに捨ててしまったのです。
デスクトップチームとモバイルチームで全く逆の結論に至った、ちぐはぐさが透けて見えます。
ExcelとPowerPointも迷走
- Excel: 「X」を消して円グラフの一部や謎の幾何学模様にする案が多数
- PowerPoint: よくわからない形まで検討
なぜこんなに丸くしたがるのか?答えはCopilotのアイコンからインスピレーションを得ているから。フワフワした輪っかのようなCopilotアイコンに寄せようとした結果、みんな丸っこくなったのです。
結論:AIのための変更、ユーザーのための変更ではない
Microsoftは「小さいながらも重要なデザイン変更は、AIが製品開発の本質をどう変えつつあるかを象徴している」と述べています。
つまり、文字を消したり丸くしたりするのは、Microsoftなりの「AI時代への決意表明」だったわけです。
しかし、その高尚なポエムのために:
- 長年慣れ親しんだデザインが失われ
- 色覚多様性を持つ人々が排除され
- 「どれがWordか分からない」と迷子になるユーザーが生まれる
アイコンの形を「戦略的に」いじる暇があったら、Windowsエクスプローラーのバグを「戦略的に」直してほしい──これが多くのユーザーの本音ではないでしょうか。
デザイナーの自己満足とAI時代のアピールのために、ユーザーの利便性、特にアクセシビリティ(使いやすさ)を犠牲にする。今回のアイコン変更は、そんなMicrosoftの姿勢を象徴する出来事なのかもしれません。
「W」の一文字にどれだけ助けられていたか、失って初めて気づく──それが今回のアイコン変更が私たちに教えてくれる、皮肉な教訓です。


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