公開日:2026年4月10日
はじめに:「Copilotがなくなる」は本当か?
Windows 11を使っていると、いつの間にかあちこちに増殖していたCopilotのロゴ。メモ帳(Notepad)、ペイント、フォト、切り取りツール(Snipping Tool)……もはや「どのアプリを開いてもCopilotがいる」という状況が当たり前になっていた。
そのMicrosoftが、ついに方針転換を公式に認めた。2026年3月20日、Windows and DevicesのEVP(上席副社長)であるPavan Davuluri氏がブログ記事「Our commitment to Windows quality(Windowsの品質へのコミットメント)」を公開。その中で、「不必要なCopilotの導線を削減していく」と明言したのだ。
そしてその約3週間後、実際に変化が始まった——。
メモ帳からCopilotのロゴが消えた
まず大きな変化があったのはメモ帳(Notepad)だ。
Windows Insider向けに配信されたバージョン v11.2512.28.0 において、Microsoftはメモ帳のツールバーからCopilotのカラフルなロゴとCopilotブランディングを完全に削除した。
変更点は以下の通り。
- ツールバー右上のCopilotアイコン → シンプルなペンアイコンに置き換え
- ホバー時の表示:「Copilot」→ 「Writing tools(書き込みツール)」に改名
- 設定内の「AI Features(AI機能)」セクション → 「Advanced Features(詳細設定)」に改名
- 「AI」という文言がメモ帳のUI上から削除
ただし、AI機能そのものは残っている点に注意が必要だ。
Write(文章を書く)・Rewrite(書き直し)・Summarize(要約)といった機能は引き続き利用可能で、その裏側はAIで動いている。変わったのはブランディングのみ。Copilotという名前が消えただけで、AIが消えたわけではない。
設定からWriting toolsをオフにすれば、ペンアイコン自体も消えるため、実質的にAI機能を非表示にすることは可能だ。
切り取りツール(Snipping Tool)はさらに踏み込んだ対応
一方、切り取りツール(Snipping Tool)における変化はより大きい。
以前のSnipping Toolには、画面の一部を選択してQuick markupを有効にすると、Copilotボタンが表示される仕様だった。さらにメモ帳と異なり、ユーザー側でオフにするオプションが存在しなかったという問題もあった。
今回の変更では、Copilotボタンが削除されただけでなく、AI連携の痕跡がSnipping Tool上から完全になくなったと報告されている。メモ帳のように「ブランド名だけ変えてAIは残した」という対応ではなく、一般ユーザー向けのバージョンでも静かに機能ごと除去されている点が注目される。
ユーザー側での設定変更を待たずにMicrosoftが自ら削除したという事実は、今回の方針転換の「本気度」を示すものとも解釈できる。
なぜ今、Copilotを削減するのか?「Microslop」と呼ばれた18ヶ月
そもそも、なぜMicrosoftはここまでCopilotを押し込んできたのか。そしてなぜ今、削減に動いているのか。
背景にあるのは、ユーザーの強烈な反発だ。
MicrosoftはChatGPTブームを受けた2023年以降、WindowsとCopilotの統合を急速に進めてきた。Office(Microsoft 365)のリブランディング、EdgeへのCopilotサイドバー、そしてWindows 11の標準アプリへの次々な搭載……その勢いはとどまるところを知らなかった。
しかし、ユーザーの反応は冷ややかだった。インターネット上では「Microslop」という造語まで生まれた——「Microsoft」と「slop(粗悪なAIコンテンツ)」を組み合わせた、ユーザーの不満を象徴する皮肉な表現だ。
Pewリサーチセンターのデータによれば、2026年6月時点でAIに対して「不安を感じる」と答えたアメリカ人は全体の半数に達しており、2021年(37%)から大幅に上昇している。こうした社会的な空気も、Microsoftの方針転換を後押ししたと見られる。
Davuluri氏のブログでは次のように述べられている。
「Copilotがどこに、どのように統合されるかについて、より意図的に判断するようになる。本当に役に立ち、丁寧に作り込まれた体験に集中する」
「AI everywhere(どこでもAI)」から「AI where it matters(意味のある場所にAI)」への転換——それが今回の方針の核心だ。
今後の対象:ペイント、フォト、ウィジェット、ファイルエクスプローラー
Davuluri氏のブログで明示されたCopilot削減の対象アプリは以下の通り。
- Snipping Tool(切り取りツール) ← 対応済み
- Notepad(メモ帳) ← 対応済み(ブランド削除)
- Photos(フォト)
- Widgets(ウィジェット)
さらにWindows Centralの報道では、ペイント(Paint)やファイルエクスプローラー(File Explorer)についても同様の見直しが検討されていると伝えられている。ファイルエクスプローラーには特に多数のCopilot導線が存在しており、今後1年かけて順次削減されていく可能性が高い。
これは「AI撤退」ではない
ここで注意しておきたいのは、MicrosoftはAIを捨てたわけではまったくないという点だ。
メモ帳の例で見たように、機能はそのままでブランディングだけを変えるケースがほとんど。「Copilot」という名前への反発が強かったため、AIそのものをよりOSに溶け込む形で再設計しているとも解釈できる。
実際、メモ帳はこの数年でシンプルなテキストエディタから大きく変貌を遂げている。書式設定・スペルチェック・テーブル・Markdownサポートなど、多くの機能が追加された(これらの拡張がCVSSスコア8.8のセキュリティ脆弱性の原因になったことも話題になった)。今後は画像サポートの追加も予定されており、機能強化の流れ自体は止まっていない。
MicrosoftはCopilotというブランドの「顔」を下げつつも、AIをWindowsのインフラに静かに組み込み続けていくだろう。
まとめ:ユーザーの声がMicrosoftを動かした
| 変更点 | 詳細 |
|---|---|
| メモ帳のCopilotロゴ | ペンアイコン「Writing tools」に変更 |
| メモ帳の設定名称 | 「AI Features」→「Advanced Features」に変更 |
| 切り取りツールのCopilot機能 | AI統合を完全削除 |
| 今後の対象 | フォト・ウィジェット・ペイント・ファイルエクスプローラー |
| AIそのものの撤廃 | なし(機能は継続、ブランディングを見直し) |
今回の変化は小さく見えるかもしれない。しかし、MicrosoftほどのIT巨人が、18ヶ月以上かけて推進してきたAI統合戦略を公式に「やりすぎだった」と認め、方向転換を始めたことの意味は大きい。
かつてOfficeをMicrosoft 365 Copilotにリブランディングするほど「Copilot」の名に資源を投じてきた同社が、その名前を静かに消し始めている——これは「ユーザーの声が企業を動かした」稀な事例として記録されるべき出来事ではないだろうか。
今後の対応がメモ帳・切り取りツールだけにとどまるのか、ファイルエクスプローラーやペイントにまで広がるのか、引き続き注目していきたい。
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