DDR5やHBMをはじめとするメモリ価格の高騰が世界規模で続いている。AI需要によるデータセンター建設ラッシュがメモリ需要を急増させる一方、供給側は構造的な制約から増産が追いつかない状況だ。調査会社の多くは2028年頃に状況が改善すると見ていたが、メモリ大手の当事者からより厳しい見通しが示された。さらに、業界トップであるSamsungが複数年の長期契約によって顧客を囲い込む動きを見せており、消費者にとっては長期的な価格高止まりが避けられない構図になってきた。
SKグループ会長、「チップフレーション」に深刻な懸念
2026年3月16日、カリフォルニア州サンノゼで開催されたNVIDIAの年次開発者会議「GTC 2026」。この場でSKグループのChey Tae-won(崔泰源)会長は、今の状況を半導体価格の世界的な高騰を指す「チップフレーション(chipflation)」と表現し現状への深刻な懸念を表明した。
「AIがHigh Bandwidth Memory(HBM)への需要を押し上げており、HBMの製造には大量のウェーハを消費する。供給不足の根本原因はウェーハの不足にある。ウェーハの調達には最低でも4〜5年かかり、グローバルのウェーハ供給不足は2030年まで20%超の水準で続く見通しだ」— SKグループ Chey Tae-won会長(GTC 2026にて)
会長はさらに、急速な増産は物理的に不可能だとも述べた。新工場の建設についても韓国・日本・台湾・シンガポール・アメリカのいずれも電力と水の確保が困難であるとして否定的な見解を示し、「拡張は意欲だけで簡単にできるものではない」と強調した。
この発言の背景には、Chey会長がすでに昨年末から繰り返し供給逼迫への警戒感を示してきた経緯がある。2025年11月の「SK AIサミット」では多くの企業から供給要請を受けていると述べ、先月のワシントンDCでの対話セッションでは「HBMのマージンは60%なのに従来チップのマージンは80%」という市場の歪みも指摘していた。
価格安定化計画を近く発表予定
厳しい見通しを示しながらも、Chey会長は「価格安定化に向けて最善を尽くす」とも述べた。具体的な内容は明かさなかったが、SK HynixのKwak Noh-jung CEOが近くDRAM価格を安定させるための新計画を発表すると予告した。
この発表の目的はAIエコシステム全体の持続的な成長を支えることにある。メモリ価格が際限なく上がり続ければ、AIサービスやデータセンター投資にブレーキがかかりかねない。供給側として、ある程度の価格コントロールに乗り出す姿勢を示した格好だ。なお、SK HynixがADR(米国預託証券)として米国市場への上場を検討していることも会長は前向きに語っており、グローバル投資家への訴求を強化していく意向が見える。
Samsungは3〜5年の長期契約で顧客を囲い込む
一方、業界の最大手であるSamsungはまったく異なるアプローチを取っている。顧客に対して3年〜5年の長期DRAM供給契約を提案し、現行水準からわずかな値引きを提示することで囲い込みを進めているとされる。Samsung CEOのJun Young-hyun氏はNikkei Asiaに対してこう語っている。
「主要顧客との取引環境を、3〜5年の固定期間契約へシフトさせる取り組みを進めている。市場の変動を早期に把握し、事前に認識したうえで投資規模を柔軟に調整できるようになる」— Samsung CEO Jun Young-hyun氏(Nikkei Asiaより)
この戦略の狙いは単純だ。Samsungは現在のメモリ価格高騰という「ピーク水準」を数年間固定することで、需要が落ち込んだとしても安定した収益を確保しようとしている。過去のサイクルでは需要急減による業績悪化に悩まされてきただけに、長期契約はその最大のリスクを排除する手段となる。
数ヶ月前にはSamsungは四半期単位の短期契約すら満足に受け付けられない状態だったとされており、状況は劇的に変化している。
ユーザー・消費者への影響
これら2つの動きが重なることで、メモリ価格の高止まりはさらに長引く可能性が高まっている。SK会長の発言は「供給を増やす術がない」という現実を率直に示すものだ。そのうえでSamsungが長期契約によって供給を囲い込めば、スポット市場に出回るメモリ量は制限され、価格の下落圧力はさらに弱まる。
従来の調査会社予測では2027〜2028年頃にDRAM価格の下落サイクルが訪れると見られていた。しかしSamsungの長期契約によって生産分の多くがロックアップされれば、スポット市場への供給が絞られ、価格下落のタイミングは大幅に後ろ倒しになる可能性がある。DDR5メモリを搭載したPC・サーバーの価格上昇は当面続く見通しで、消費者が恩恵を受けられる時期はさらに遠のきかねない。
一方でSK側が発表を予告している「価格安定化計画」がどのような内容になるかは注目点だ。大口値下げは期待しにくいが、一定の価格上限設定や顧客保護策が盛り込まれれば、急騰の抑制にはつながるかもしれない。
まとめ
メモリ市場を巡る状況は、当初の予想よりはるかに長期化する様相を呈している。SKグループ会長は「2030年まで供給不足は続く」という衝撃的な見通しを公式の場で表明し、物理的な制約から短期的な解決策は存在しないと認めた。Samsungは長期契約という形で現在のメモリブームを可能な限り延命させようとしている。
AIインフラへの投資が世界規模で続く中、HBMを中心としたメモリ需要の増大は止まらない。一般ユーザー向けのDDR5価格も、こうしたマクロの力学から切り離されることはなく、当面は高水準が続くと見るのが妥当だ。SK HynixのCEOが近く発表するとされる価格安定化計画の内容と、それが実際に市場へ与える影響については引き続き注目していきたい。
参照元
Tom’s Hardware – SK Group chairman says memory chip shortage will last until 2030
Wccftech – Samsung Is Luring Customers With a “Slight Discount” Into Five-Year Contracts

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